人にとって働くことは社会参加の大きな機会であり、これが多くの人にとって生きがいとなり、健康増進の要因であることが社会科学研究や実感として示されています。世界の中で少子高齢社会の先頭を切るわが国において、社会の基盤となる広義の産業活動が維持され、人々が活躍できる社会が持続的に発展することを示すことは重要な役割とも考えます。
企業、組織による働く人の健康に配慮した就労環境の整備、適性配置、能力開発への支援は企業の成長や生産性の向上だけでなく、健康的な社会創りへの貢献に繋がります。健康経営は、今は古い言葉となってしまった感のあるCSR(企業の社会的責任)の一端であるとともに、企業の存在基盤を固め存在価値を高める重要な経営理念の一つであり、有効な企業活動の活性化、企業価値向上の手法と考えます。働く人の健康は企業の力を高め、また、持続可能でやりがいのある仕事は個人の健康度を高める、相互に正の相関をもつものです。
産業保健を担う専門職を育成する教育機関であり、研修機会を提供し、産業医学分野の研究を推進する機関の責任を担う者として、産業保健の目的は広義の「適正配置」と考えています。就労環境の整備、労働態様の改善、職務設計の至適化、健康管理や能力開発は人の働く選択肢を広げます。身体障碍者の就労機会の確保や、治療と就労の両立支援はノーマライゼーションの一環であり、健康増進活動や働き方改革とあいまって健康経営の重要な要素と考えます。
健康経営の定義は未だ様々ですが、その目的、ベクトルは同じ方向に向いているものと思います。まだまだ、端緒に就いたばかりの日本における健康経営への取り組みですが、九州・福岡健康経営推進協議会の会員、関係者各位との意見交換、実践に基づく事例の共有と評価、そして個人、企業、社会の進歩に繋がることを期待しています。
東 敏昭
産業医科大学元学長 顧問 名誉教授